よってたかって恋ですか?


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陽のある内は まだまだ暑いねなんて言いつつも、
日ごとにどんどんと風もお空も秋めいてくる。
朝の冴えた冷え込みや、
高い空に鳥のきぃきぃという鋭い鳴き声が響き渡るのとか。
陽の落ちるのの早さ、
はやばやと暗くなる宵の静かな過ごしやすさなどなど。
じかに感じる情緒的なあれやこれやへ、
ああ、もう秋なんだなぁと体感するもよし。

 【 秋と言えばやっぱりモンブランですよねぇvv】

サンマやサバに、里芋にサツマイモ、
きのこの数々、葡萄や梨や栗といった果実など、
秋に旬が来る味覚の数々へ、
ああそういえばと食欲をくすぐられつつ しみじみ感じ入るもよし。
主婦同士として何かと気の合う静子さんと誘い合い、
隣町まで売り出し目当てのお買い物に出たブッダを見送った。
物によっては数量制限とかあるそうで、争奪戦となるエリアもあるやも。
そんな中へ自分がついてっても戦力にはなれないだろうと、
遠慮しての居残りを自ら言い出してのこと、
こちらは お留守番をしつつ、
午前中の奥様向け番組をテレビでまったりと観ていたイエス様。
ただ今、旬の味覚を紹介されつつ 秋の到来を堪能中でございまし。
この秋の新作スィーツという紹介コーナーを、
ほほぉとか わぁvvとか、
素直に感嘆しいしいご覧になっている真っ最中。
秋と言えばの味覚、旬の栗を使ったスィーツとして、
ペーストにしたりクリームにしたり、様々な工夫を展開し、
それこそ モンブランやムース、ロールケーキから、
羊羹やもなかに、栗あんのタルトといった和菓子に至るまで、
そりゃあ美味しそうな逸品ばかりが紹介されており。

 「わ、このケーキは美味しそう♪」

甘いものといや女子供…というのは日本人の偏った観念で、
昨今の“スィーツ男子”を持ち出さずとも、
欧米では 男性だってがっつりと、
食後のデザートからアイスクリームやカップケーキまで
ごくごく当たり前に食べてござる。
ブランデーやスコッチといった
味わい深くて やや強いお酒に合わせると乙だから、
小粋なチョコレートの店だってそれぞれに御存知だったりするほどで。
こちらのイエス様におかれては、
突拍子もないほど昔の時代に生きた人であるがゆえ、
中世フランスで華々しく開花したデザート文化、
じかにという格好ではよく知らなかった身だけれど。
何の何の、
地上から天界へと流れ来る情報にて、既にいろいろ御存知ではあったし、
高名なパティシェたちも、多数 昇天なさっておいでなので、(こらこら)
折にふれ 腕を振るってもらって、今時の色々とやらも 既に知ってはいた。
ただ、

 “日本のケーキはまた、格別な出来だったりするものねぇ。”

スポンジがふんわり柔らかで淡雪みたいとか、
繊細な素材の風味も大事にした工夫がいっぱいとか、
後発なればこそ、
そもそもは保存食だったとか、祭事の折にのみの特別なものとかいった
動かしがたい背景の無い自由さからだろう、
奔放自在な作風の品が多数見受けられ。
今や本場だろう欧米の国々からも絶賛されているほどだ。

 「〜〜〜♪」

ああでもでも、一番美味しいのは、やっぱこれだよねと。
テレビ画面に映し出されたスィーツなんて何のその、
お留守番する愛しい人のため、ブッダが手際よく用意してくれた、
おやつのムースケーキをご満悦で食べておいで。
売り出し目当てに買い物に出掛ける話が持ち上がったのは昨日だったので、
それから、昨夜のうちに仕込んだ如来様であるようで。
レアチーズケーキの上半分、
それはなめらかなムースが載っており、
カシスのような淡い紫、
でもでも、表面にうっすらかかったジュレからは
葡萄の香りがほのかに立っており。
ちょっとしたお店の品だと言っても十分通用しそうな完成度。

 “う〜ん、凄いよねぇ。”

他のケーキにしてもそう。
最初は蒸しパン、それからカップケーキ。
お芋やかぼちゃの練りきりに月見団子と、
初心者向けのレシピから始まり、
シフォンケーキにブラウニー、
フォンダン・ショコラもお手のもの。
イチジクや梨のコンポートも、
パンプキンパイもロールケーキも美味しいし。
先週はシュークリームも作ってくれて、
今度 新のサツマイモで、スィートポテトかタルトを作ろっかなんて話してた。
メイド・イン・ブッダがあんまり美味しいものだから、
冗談抜きに コンビニでわざわざ買う機会が減ったほどのイエスでもあり。

 “しかも、ブッダ本人はそれほど食いしん坊ではないものね。”

油断すると太りやすいからとか、
断食という苦行を苦もなくこなせるから…というのとは、
ちょっと意味合いが違って。(当たり前です)
イエスが 弟子に呼ばれたり、はたまたオフ会などで出掛けてしまい、
昼食なぞ そちらで済ます運びとなると、
途端に あるもので簡単に済ませてしまう彼だと知っている。
ケーキだプリンだ、作り置きがあったとしても、
手を触れもしない彼であり。

 “面倒だからってことはないよね。”

確か 禅の修行では、料理の支度も修養の一環で、
黙々と作法や決まりごと通りこなすことが、
心を“無”へ研ぎ澄ますことに通じるとかどうとか聞くし。
何より、作り置きが利くものを 手持ち無沙汰だからと作ることはある彼だし。
なのなので、そういった手間を厭ってというんじゃなくて、

 “…自惚れて言うんじゃないけれど。///////”

イエスのために、イエスが喜んでくれるからと、
お料理にせよスィーツにせよ、手の込んだものを作ってくれる彼なのであり。
肝心なイエスが居ないのならば、手間を掛ける意味もなくなるし、
一人で食べても楽しくないし…と思えてしまうなんて、

 “ますますのこと、お母さんだよね。//////”

……違うだろうが、メシア様。(笑)
優しく繊細な風味のするムースをスプーンに掬い取り、
ふふと小さく微笑んでしまうのは、
そんな極上の風味が嬉しいってだけじゃあなくて、

 『私、今はイエス以外どうでもいいというか。/////////』

そんな罪深くもドキドキするよなこと言ってくれたのは、
確か今年のバレンタインデー前だったっけね。
女子高生たちからお菓子作りのカリスマ扱いをされ、
それを退けてもこっそり注目されてるイケメンさんなの、
教えてあげても特に喜んでなかったものだから。
大人だなぁクールだなぁと やや揶揄しつつ褒めたところ。
和菓子のぎゅうひ餅みたいにやわらかそうな白い頬に、
ほんのりと緋色を透かして照れながらのことながら。
それでも さらっと、そんな一言 口にしたブッダだったのを思い出し。

 “あああ、可愛かったなぁ。///////”

勿論、今だって何につけ そりゃあ可愛いし、
時々は色香も増してのこと、
ついつい視線が吸い込まれちゃうよな、
それはドキドキしちゃう存在になりつつある。
そんな伴侶様の含羞みのお顔なんぞ思い出し、

 「…ごちそうさまでしたvv」

仄かに酸味も利いていて、
土台部分のクッキーとの食感のバランスも絶妙だった、
それは美味しかったムースケーキをいただき、
満足満足と手を合わせたまでは良かったが、

 「う〜ん…。」

こちらはさすがに自分で淹れた紅茶が、やや残念な案配だった模様。
覚えのあるままの手順で用意したのに、
ブッダがいつも淹れてくれる
絶品ミルクティーによほど慣れてしまっていたせいか、
何だかちょっと薄かったような気がしてならず。
せっかく美味しいケーキを堪能したのに
仕上げが何てまあ不本意なと、
その口元をお髭ごと む〜んと曲げてしまっておれば、

 「……お。」

卓袱台に載せていたスマホが ヴーンと唸って震え出す。
着信を設定して無い人からのメールらしく、
手持ち無沙汰だったこともあり、
誰からかなぁと ややワクワクしつつモバイルを手にしたイエス様。
ブッダが常々うっとりしている、精悍な作りの手の中、
小さな液晶画面に呼び出された文面へ、
さっきまで“あ〜あ”とたわんでいた口許が、
あっと丸く開いてから、ふふーvvと楽しそうにほころんだのだった。





     ◇◇◇



そろそろお昼ださあ大変と、
静子さんは愛子ちゃんの、
ブッダ様はイエスのお昼ご飯の支度があるのを思い出し。
他の何を持って来たって譲れぬこともお互い様で、
じゃあまたねとの挨拶もそこそこ、それぞれのおウチ目指して駆け出しており。

 「ただいま〜。」

サラダ油だのボックスティッシュだの、
嵩張るものや重いものも結構あったが何するものぞ、
アパートのステップを軽快に(でも足音には注意して)駆け上がり、
二階の我が家へやっとのこと辿り着けば、

 「ブッダ、お帰り〜♪」

いい子でお留守番してましたと言わんばかり、
弾む声でのお返事とともに、
自分とお揃い、Tシャツにジーンズといういで立ちをした痩躯の君が、
わざわざ六畳間から立って来た。

 「ああ、すごい荷物だね。
  それに遠かったから道々暑かったでしょ?」

あわわと今 気がついて、
踏み込みかけてた一歩を戻り、
押し入れの整理ダンスからタオルを取ってくる段取りの悪さがまた、
何とも彼らしくて微笑ましい。
よく気がついたねと褒められたいのじゃあなくて、
少しでも至れり尽くせりをしてあげたいという
そんな彼なりの健気さで頑張っているのが伝わって来て、

 “もうもうもう…。/////”

一生懸命なそんなこんな、
向けられている側のブッダには甘酸っぱくて堪らない。
受け取ろうと手を延べた荷物は、だがどれも重いので、

 「じゃあこれ。押し入れとトイレの上の棚へ仕舞ってね。」

ボックスティッシュ5個組みと芳香剤の詰め替えと、
お願いしますと差し出せば、は〜いと受け取り、嬉しそうに飛んでゆく。
その間に、こちらは食料品を整理。
醤油や上白糖に、カボチャやキャベツ、
牛乳に合わせ味噌にと、重たいものも いやに多かったけれど。
そこは力自慢のブッダ様、
別れ際までは静子さんの買い物まで引き受けていたほどで。
常温でいいものをとりあえず流しの下の定位置へ収め、
続いて、板張りの床に膝をついて屈み込み、
冷食品を冷蔵庫へ仕舞っておれば、

 「ぶ〜っだvv」

そんな背中へくっついてくる温み。
六畳から戻ったそのまま、
同じようにしゃがみ込み、ぱふんと抱きついて来たイエスのようで。

 「ああ、まだ片付けないと。」

まだ済んでないよぉとブッダが抗議めいた声を背後へ掛ければ、

 「早く早く♪」

何かのお遊戯のようなノリでの甘えようを示す彼であり。
ご陽気に見せていても、そうまでお留守番が寂しかったのかなぁと、
ちらり案じかかったブッダだったその気遣いへぎりぎり届いたのが、

 「充電したいのだもの♪」
 「あ。/////////」

匂いや肌の温み、笑顔や声、
勿論のこと 存在感そのものも、
離れていた分を取り戻したいのという甘えよう。
イエスの側がブッダをと、そうと言いたい彼なのだろうが、
生真面目がすぎるブッダの側からは
冗談めかしてでも まだまだ言い出せなかろう、
寂しかったという弱気な想い。
自分の心情より何より、
聞いた側が気を遣わないかと思いもするがため、
そんなこんながグルグルしてしまって、
結果 及び腰になる自分には到底、
ひょいとは言えないこと、訊けないことを、
ちょっぴりお茶目な、雰囲気のある物言いで、
気負うことなく さらりと形にしてしまえるなんて。

 “やっぱりイエスは凄いなぁ…。//////”

胸底にて“くうん・きゅん”と、
仔犬のような甘えのお声を上げつつ。

 「もうちょっと待っててね。」

お片付け、手際よく済ませないとね。
でもねあのネ、こちらからももうちょっと甘えさせてほしいから。
もう少し、このままで居られるよう、
わざとに ちょっぴり手際のテンポを遅らせようか。

 “なんてね。////////”

それこそ柄にないことかしら。
いやいや、このっくらいは大した惚気じゃあないはず、と。
そんな甘い甘いこと、こっそり胸の内にて転がしておれば、

 「あのね、
  さっき ふみちゃんからメールがあったんだ♪」

 「………ふみちゃん?」

途端にぴたりと手が止まった釈迦牟尼様だというのへ、
イエス様、ほら前々、気がついてっ。(苦笑)




  お題 1 『あなたの隣り』





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  *相変わらずです両想いvv
   そして、チラリと今回のお話の本筋へ取っ掛かりも。(苦笑)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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